氏 名
豊田 乾
 所 属
東燃本社OB会
 掲 載 日
平成25年06月01日
表 題

短歌便り-33(海外旅行-3)

本   文 


 (ひし)めきて走るバイクの奔流にアオザイの()を乗せたるもあり

 弔いと祝いの花を並べ盛る露天の店に夕陽の映える(ハノイ街角)

 ハロン湾に魚売る漁師寄り来たり小舟あやつり兜蟹(かぶとかに)掲ぐ

 夕(かげ)る白き荒野に灯の一つ夕餉の卓に子らは集うか(シベリア上空より)

 愛らしきロシアの()らは(はか)らいて笑顔見せつつドルをかすめぬ

 コツコツと車窓をたたき花を売る脚萎えの子に暑き夕陽よ(マニラ街角)

 咲き満つる林檎の花の散る方に地雷危険の髑髏(どくろ)の標識(スロベニア)

 天高く飛び交うローマの(つばくらめ)一会(いちえ)を惜しみ見上げたたずむ

 あの白き夏雲の上を飛び越えてどこか異国への旅に出でたし

 久し振りの海外旅行はベトナムである。街角の雑踏とバイクの群れ、歩道を占拠する食べ物屋、肉屋、魚屋などの各種露天には、日本にはない活気が感じられた。ただし、蒸し暑さと交通規則無視のバイクの横行には閉口した。

 以下は便りには載せなかった昔の旅詠のかき集めである。

 欧州への途上、シベリア上空を飛ぶが、雪に覆われた荒涼の白い大地に一つだけ人間の住む証とも言える灯を見つけたときは感動した。

 モスクワのドルショップで愛らしいロシア娘たちが組織ぐるみで、当時ロシアでは貴重品だったビニール製買い物袋の売り上げ数や釣銭をごまかしているのを知り、社会主義制度の影と腐敗を眼前に見せつけられた。

 当時、マニラの治安は悪く、デパート入り口には銃を持った警官が警備にあたり、街には浮浪児の花売りが溢れていた。

 内戦が終わったスロベニアは未だ戦乱の跡が生々しく、農家の納屋壁は弾痕で崩れ、花が満開の林檎畑には入り口に地雷注意の髑髏標識があった。

 画「ローマの休日」で有名になったスペイン広場の空には燕が飛び交い、一期一会の心境でしばらく燕を眺めていた。

以上