氏 名
加藤 浩二
 所 属
東燃本社OB会
 掲 載 日
平成23年09月01日
表 題

 シダの不思議

本   文 


 江戸の古典園芸には変化葉シダ,変化葉 石蕗 ( つわぶき ) 、斑入り 万年青 ( おもと ) 、変わり咲き朝顔等が粋人はもとより庶民の間でも大変流行りました。オランダのチューリップほどではないにしろ、物によっては数十両で取引されたため、幕府が再三禁止令を出すほどでした。

 シダは江戸時代から戦前までに様々な変化葉が見つかっており、胞子から育てることでも新たに珍奇なものが出現していました。牧野博士や熊楠翁も愛でた植物ですが、残念なことに先の大戦の空襲で大きな痛手を被りました。喜ばしいことに現在はかなり復興して江戸の文化が継承されています。

 私は30年以上、変化葉シダを蒐集しておりますが、縁の無い方には、摩訶不思議な世界と思われますのでその一端をご紹介したいと思います。変化葉を“芸”と謂い、芸が固定化(数世代続いて発現すること)されたものには典雅な呼称が付けられています。写真A1、A2はノキシノブの芸で、A1は「平獅子」、A2は「雲竜」、Bはヒトツバの芸で「南京獅子」、Cはマツバランの芸の「鳳凰柳」、Dは「獅子マメヅタ」で1977年に南紀で発見されたもの。Eは「オニヒノキシダ」。ヒノキシダとオオタニワタリの自然交雑種で1960年に屋久島で発見されたものです。シダはジメジメしたところを好むと思われがちですが、多くの種類では高い空中湿度を好む反面、特に着生シダは根の過湿を嫌います。

 シダはこれ見よがしに派手な花なぞ咲かせて媚を売る紅灯のフーゾク嬢とは違い、深山にひっそりと個性の証を“芸”で示し、禅宗の公案を黙考するが如き風情は奥ゆかしく孤高の人である私の様ではありませんか!

 

  青き葉のシダを肴に老いの夏

  シダの葉に露を ( とど ) めむ草田男忌

  風に ( ) るシノブの下の猫が夢

                          浩二

以上       

A1 平獅子
A2 雲竜
B 南京獅子
C  鳳凰柳
D  獅子マメヅタ
E  オニヒノキシダ

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