氏 名
豊田 乾
 所 属
東燃本社OB会
 掲 載 日
平成23年08月15日
表 題
 短歌便り-19 (盛夏)
本   文 


 短歌便り-19 (盛夏)

 銀箔のごとく朝陽に煌めきて椿の若葉は夏風に揺る

 汚れ増す川に今年も鮎 ( のぼ ) る道行く人に声かけ示す

 動乱の世界をよそに小さくも紅鮮やかに夏の薔薇咲く

 一輪の夏ばら高くセビリアの舞姫のごと ( ) の色に咲く

 南国の娼婦のように ( なま ) めきて宵闇に揺れる ( のう ) ぜん ( かずら )

 海風に真向かい手挙げ ( まなこ ) 閉じ鴎となりて海原を舞う

 夕されば酷暑に喘ぐ老い二人に汐の香乗せて海風の吹く

 騎士のように鎧まといし小蜥蜴が青き尾残しあたふたと消ゆ

 幼らの歓声耳によみがえる 昨夜 ( よべ ) の名残りの花火の屑に

 炎昼の草木も枯れし石庭に蝉の声しげく方代忌来る(瑞泉寺)

 二人並び 雑草 ( くさ ) むしりせし一日を珠玉のように愛しみ睡る

 子供の頃は夏休みがある。川で魚釣りや水遊び、林でかぶと虫、蝉や蜻蛉を追いかける毎日が楽しく、夏は大好きだった。

老いたる今は暑い夏、寒い冬は苦手になった。それでも、朝夕に磯の香をのせて吹く涼しい海風は気持がよい。岸壁に立ち、海風を胸一杯に吸い、目を閉じると、自分が大海原を舞う鴎やヨットになった気分になる。

少なくなったとは言え、小川には稚鮎の群れが遡上してくる。お節介爺さんは自分だけで楽しんでいるのは勿体ないと、見ず知らずの他人にも声をかけ、稚鮎の遡上を教えるが、若い人には興味がないらしく怪訝な顔をされることが多い。

                            以 上

                         
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