氏 名
豊田 乾
 所 属
東燃関東地区OB会
 掲 載 日
平成23年07月01日
表 題
 短歌便り-18 初夏
本   文 


   短歌便り-18(初夏)

 初夏(はつなつ)の風になりたや早乙女(さおとめ)の裾ひるがえし(つばくろ)乗せて

 小坊主らの覗き見するごと梅の実はたわわに実り葉陰に揺れる

 虹色にオパールのように(きら)めきて朝露のあり椿の葉先に

 時鳥(ほととぎす)()に誘われて()に出れば谷戸(やと)渉る風は若葉に薫る

 初夏(はつなつ)の光に魚影は煌めきて少年のように心ときめく

 桑の実を()めば甘酸くよみがえる飢えに追われし少年の日々

 ただ一つ(はつ)に実りし桜桃を飾り眺めて妻と分け合う

 紅(くれない)(ぐみ)の実つけし一枝活けルビーより()しと妻の喜ぶ

 妻の好むまだ爪青きそら豆をためらいつつも二山求む

 夜更けてしきりに母の想わるる五月の闇に青葉(づく)啼く

 翡翠(かわせみ)の瑠璃の一閃魚()らう見たるを一日(ひとひ)の幸せとせむ


 原発事故は終息しないまま被災地の東北地方は梅雨入りとなった。だが、たがいなく季節は巡り、木々には梅の実、枇杷、桜桃、杏、山桃、茱、桑の実などが実る。鶯は朝から夕方まで囀り続け、時鳥は時折鋭い声で啼きながら空を飛ぶ。夜ともなれば青葉梟(あおはづく)が淋しげに「ゴロスケ、ポッポー」と低音でつぶやく。近所の小川には稚鮎の群れが遡上し、それを狙って白鷺、翡翠(かわせみ)もやって来る。畑には、好物のそら豆、いんげん、玉蜀黍、茄子、胡瓜が実り、食卓を賑わせてくれる。天も地も豊穣の季節である。

                            以 上

                         
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