氏 名
豊田 乾
 所 属
東燃関東地区OB会
 掲 載 日
平成22年12月20日
表 題
 短歌便り―9
本   文 


  短歌便り-9 「海外旅行―2」

   旅空に日照雨(そばえ)かかりぬ夕暮れて廣野の果てに(おお)き虹立つ

(ノルマンジー)

   黒マリアを守る老婆は眼を閉じて化石のごとくひたと動かず

(スペイン、聖地モンセラ)

   遠き国を夢見て船出せし人はこの岬にて大洋(うみ)眺めしか

(ポルトガル、ロカ岬)

   バルカンの青き山並み雪白く夏野彩る罌粟(けし)(くれない)

(ブルガリア)

   ミケーネの黄金(こがね)の面を傍らに警護の()らは私語に耽りつ

(ギリシャ)

   冥界の妖しき色か濃き藍の暮色に揺れるドナウの河面

(カレル橋)

   丘の上の家々の灯は霧に滲み白夜の港に遅き夜来る

(北欧ベルゲン)

   大夕焼け物乞う子らの眸にも赤く燃えおりマニラの街角

(フィリピン)

   地底湖の盲目(めしい)(うお)は囚われの身を寄せ合いて身じろぎもせず

(スロベニア、ポストイナ鍾乳洞)

   納屋壁に痘痕(あばた)のごとく弾痕のしるけき村に林檎花咲く

(スロベニア)

   異国(とつくに)の枯れ山水に(たくみ)らの意気意地を見る苔の石組み

(ウィーン日本庭園)

 まだまだ訪ねたい国や土地は沢山あるが、さすがに13時間も要する欧米への航空機の旅は体力的に無理となった。こうして、拙いながらも旅の短歌を並べてみると、当時の想い出が感動を伴いまざまざと胸に蘇る。

 もし再訪が許されるとすれば、ウィーンとザルツブルグを含むその近郊、ニューヨークとでもなろうか。どちらにも素晴らしいオペラ劇場、コンサートホール、美術館、庭園があり、退屈することがない。

 近年発見され再建されたシェーンブルン宮殿の日本庭園は、苔を栗鼠などに食べられてしまうので、残念ながらネットで覆われ、庭園の良さが失われた。

以上