氏 名
大峯 登
 所 属
東燃和歌山OB会
 掲 載 日
平成19年10月22日
表 題
 熊野古道おもしろ物語 (滝尻王子)
本   文 


「乳岩」で狼に守られた乳飲み子>

 滝尻王子(旧中辺路町)は、藤白王子や切目王子などと共に五体王子の一つとして、上皇や貴族の崇敬を集めた王子社であった。

 滝尻王子の裏手にある「剣の山」の急坂を登ると、奥州に栄華を築き、又源義経を平家や源頼朝からかくまった奥州平泉の雄 藤原秀衡の伝承が残る「乳岩」に着く。

 熱心な熊野信者であった秀衡は子供に恵まれていなかったため、熊野権現に子授け祈願をしていた。そしてその甲斐あって妻が懐妊し、秀衡はそのお礼参りのため、身重の妻を伴い熊野に向っていた。

 ここ乳岩に着いた時、妻がにわかに産気づき、奥行き6メートルほどの岩屋である乳岩で無事に男の子を出産した。

 この夜秀衡の夢枕に熊野権現が立ち、「赤子はそのままこの岩屋に残し、急ぎ参詣を続けよ」とのお告げがあった。秀衡は半信半疑で岩屋に赤子を残し、熊野へと急いだ。

 そしてつつがなく三山の参詣を済ませた夫妻は、子供の無事を念じつつ飛ぶようにこの岩屋に戻ってくると、赤子は岩からしたたり落ちる乳を飲み、狼に守られ無事に育っていたという。

 この赤子が、秀衡の死後、義経に組して頼朝に対抗すべきと主張した和泉三郎忠衡だといわれている。

 ここ中辺路では、この乳岩が安産と母乳祈願の対象として、地元のみなさんに信仰されており、狼は神の使いだと信じられている。

                                         (紀州語り部 大峯登)

 

滝尻王子
滝尻王子
乳岩
乳岩アップ